-クラウドファンディングはどうでした?
今なら笑えますが、二度とやりたくないほどつらかったです。毎日支援されているかどうかの動向をチェックして、一喜一憂する日々でした。
-クラウドファンディング中はつくば市内を駆け巡っていたという印象です。
実はクラウドファンディングをやってみて、地域の力をはじめて感じました。つくばってすごいと。出版社が冗談で「つくば支社つくっちゃえば?」って言うくらい、つくばからこの本を!という熱量を感じていました。当初は「熱量が高まるタイミング・コミュニティーはそれぞれ違う」と出版社からアドバイスを頂き、一つ熱量が高い団体があるとそこから伝わり広がっていくと聞いていました。ところが、私には所属団体などがありません。「そのうち出てくるでしょう」と見切り発車でスタートしてみたのですが、この熱量を吸い取ってくれるのはどこだろうと悩んでいました。関連団体にもアプローチしつつ、道を探っていたのですが、意外なことに熱源は「つくば市」でした。私も出版社も予想していなかったことです。
-つくば経済新聞でも取材をさせていただきました。
実は、皮切りはつくば経済新聞の記事でした。「読んだよ」という反応があったり、記事を読んだ幼稚園の先生やママ友が合わせて80人にLINEを送ってくれたり。最後に市長が長文で紹介してくれて、メディアも引っかかってくれました。そんな風に草の根で広がっていったという実感があります。出版社にもそれが伝わっていて、最終的には「出版記念パーティーやイベントを、なぜつくばでやらないのか」と言われるくらいでした。クラウドファンディングという形式でなければ今のような広がり方はしなかったと確信しています。
-どのように広がっているのでしょう。
支援者には一般販売の前に本を送りました。その読者がSNSで感想をつぶやいたり記事を書いたりしてくれています。「3時間で読んだ」という方や、「まだ読めるけど楽しみたいから閉じよう」という方もいらっしゃいました。
クラウドファンディングはただ資金を調達するだけでなく、共感を伴ったわくわくするプロモーションの一つだと実感しました。個人的にも、翻訳者として、ただ翻訳したというだけではなく、編集者や出版社が一丸となって「絶対にこの期待を裏切ってはいけない」という力になり、燃えました。
-終わってからも熱量を保っていましたか。
年が明けてから編集者、校正者と私の3人がそろい、もっと良くしてくためにどうしたらいいかを日々検討しました。もうそろそろいいのではというくらい赤を入れてくれる。「諦められない」と言って…。あまりに楽しかったから燃え尽きました(笑)。
-今回感じられた地域の力は、プロモーションにも影響があるのでしょうか。
地域に助けてもらえた実感が大きく、直観的に地域を大事にしようと思っていました。出版までにエネルギーを使いすぎたのと、全国書店に流通する本なので、地元での営業はしなくてもいいかなとも頭をよぎりましたが、これはコミュニティーの力に助けられて出版できた本です。翻訳書が「新刊」と呼ばれるのは3カ月と短いですが、いい本は時代を超えて読まれ続けます。新刊としてのプロモーションにこだわらなくてもいいかなという気持ちです。
学生時代の話になるのですが、文化人類学という他者理解の学問を学んでいたことが今につながったように感じています。研究では「コミュニティーに恩返しする」というキーワードが繰り返し出てきました。私のフィールドはアメリカのローカルコミュニティーで、ギャングなどが原因で治安が問題になっていた地区でした。良い雰囲気をもたらすことでギャングが居つきにくい状況にするといったことが行われていて、大学に進学することや、花に水をやるのも、現地の人にとっては「コミュニティーへの恩返し」だったのです。その経験が思い出され、私も「つくば」にアプローチしなくてはと思いました。クラウドファンディングなどの一連の経験を通して、これからの時代はローカルの力を信じることが重要だと体感できましたし、この地に生きている意味がある、と感慨深かったです。これからの時代はコミュニティーだぞという気持ちになりました。
-キッズライクアスをまだ手に取っていないつくば市民に一言お願いします。
つくばという街の底力が大きかった今回の出版。これまでは「出版を応援」していただきましたが、次は「読んで応援」をお願いします。つくばを拠点に、この「キッズライクアス」という良書を全国に広げていけたらと思います。